21世紀の最初の四半世紀が終わり、いよいよ新たな四半世紀、次の25年へと突入する。懐疑の渦のなかで開幕し、熱狂のうちに終わった大阪・関西万博は、いま思えばこうした時代の橋渡し役だったのかもしれない。象徴的だったのが、万博開幕当初のタグラインが「Towards a brighter future for all」で、“ひとつの輝かしい未来”を志向していた一方、半年後の閉会式のテーマは「For the Futures」と複数形の未来(futures)を掲げていたことだ。
『WIRED』の熱心な読者ならよくご存じのように、ぼくたちはパンデミックに突入した2020年代の幕開けに「FUTURES LITERACY」特集を組んで以来、この複数形の“多元的な未来”という可能性をずっと大切にしてきた。「WIRED Futures」と銘打ったカンファレンスを開催し、創刊30周年には「2050年、多元的な未来へ」というテーマを掲げた。ちょうど1年前のこのエディターズレターでも、いまのタイミングで開催される万博に意義があるとすれば、それは20世紀型のただひとつ決められた未来ではなく、バラバラのいくつもの未来が立ち現れることだと提言した。
こうして紡ぎ上げてきたナラティブが万博の最後のメッセージ(つまり2050年へと続く次の四半世紀への申し送り事項)に結実した、とうそぶくほどぼくたちは厚かましくはないけれど、例えば「未来という概念自体がもう時代遅れだ」といった、万博開催当初に見られた言説そのものが時代遅れであることを、ここで改めて確認しておきたい。未来そのものが、再定義され続けていくのだ。
だから、『WIRED』は未来を予測するメディアだとよく誤解されるけれど、それよりも、未来の可能性を拡げ、選択肢をいくつも想像/創造していくメディアなのだ。その射程は22世紀やその先までと長いけれど、とりわけ目前の未来を語るのが、年末恒例のこの「THE WIRED WORLD」特集となる。
いまや誰もが知りたい近未来といえば、「AIは本当にバブルなのか」というものだろう(もしこれをお読みの時点でまだ弾けていなければ、の話だ)。経済学者のブレント・ゴールドファーブとデヴィッド・カーシュは『テクノロジー・バブル』という著書のなかで、歴史上の58の事例から、技術的イノべーションがどのようにしてバブルを生むのかを分析し、その基本要因を挙げている。それは「不確実性」「ピュアプレイ(専業企業)」「投資初心者」「強力なナラティブ」の4つから成る。
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例えば19世紀後半の米国で街に電灯が灯ると、人々はその技術革新がもたらす文字通り輝かしい未来を確信した。それでも、社会が電気を完全に活用するまでには、さらに50年を要したという。
あるいは100年ほど前にラジオの放送が始まると、人々はこの情報技術の有用性をすぐに理解したものの、ビジネスモデルについてははっきりとしないままだった。それでもラジオ関連株は史上最大のバブルへと成長し、1929年にピークをつけたあと、実に97%もの大暴落を記録した。
同じころ、チャールズ・リンドバーグがニューヨークからパリまでの人類初の単独無着陸飛行を成功させたことは、航空産業の未来を約束する格好のテックデモとなった。この強力なナラティブによって膨らんだバブルは同じく29年をピークにして、その後の3年で96%も下落している。
いまや人工知能(AI)を取り巻く状況はこの4つの要因をすべてきれいに満たしている。今夏にMITが公表した資料によれば、生成AIを導入した企業の95%が、この技術からいまだ何の利益も得られていないという衝撃的な調査結果もある。もし今回のイノべーションだけは例外だと思うなら──つまり、OpenAIのサム・アルトマンがかつて語ったように、AGI(汎用人工知能)の開発に専念しさえすれば、あとのビジネスモデルはきっとAGIが見つけ出してくれると期待しているならば、それこそが紛うことなきピュアプレイの典型だ。
もちろん、電気もラジオも航空機も、あるいは2000年のドットコム・バブルをくぐり抜けたインターネットだって、いまや誰もが当たり前のように日々利用している。
身の回りではブーマー(AI加速主義者)とドゥーマー(AI破滅論者)がますます二極化し、未来が薔薇色なのか暗黒なのかと盛んに議論されているけれど、AIバブルがたとえ弾けても、そのあとにはAIに満ちた社会が到来し、多くの仕事が失われてはまた生まれて、“人間”の定義そのものが更新されていくだろう。電気という歴史的イノべーションの恩恵をフルに享受するいまの社会がユートピアでもディストピアでもないように、2050年を生きるぼくたちも、AIの隣で悲喜こもごものあらゆる人生を送っているだろう。
だとすれば、輝かしいひとつの未来というナラティブに身を委ねるよりも、次の四半世紀に向けてそれぞれの未来を描く方がよっぽど本質的だ。そこから立ち現れる多元的な未来への道筋が、「THE WIRED WORLD IN 2026」特集には詰まっている。
『WIRED』日本版 編集長
松島倫明
※ この記事は英語版も公開されています。英語版の記事はこちら
※ 雑誌『WIRED』日本版 VOL.58 特集「THE WIRED WORLD IN 2026」より転載。
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「THE WIRED WORLD IN 2026」
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