ゲームをディスクで買い続けてきた人たちにとっては、悪い知らせがある。ソニーは2028年1月以降、PlayStationコンソール向け新作ゲームのディスク版生産を終了すると発表した。7月上旬に公開されたブログ記事で、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のグローバルコンテンツコミュニケーション担当シニアディレクター、シド・シューマンが、この方針を明らかにしている。
シューマンは、この決定について、消費者の「利用実態や市場環境の変化」を踏まえたものだと説明した。エンターテインメント業界全体が物理ディスクからデジタルへ移行し、デジタルメディアへの需要が物理ディスクを大きく上回るなか、「現在のお客様のゲーム購入・利用実態に沿った形で事業を展開してまいります」としている。
発表が行なわれた記事はわずか3段落の短いものだが、それが今後のコンソールゲーム業界全体に与える影響について、いくつもの疑問を浮かび上がらせる内容となっている。とはいえ、多くのゲーマーが真っ先に抱く疑問は、「ソニーは何を考えているのか?」ということだろう。
ディスクに収まらないゲーム
ソニーの決定にはメリットもある。PlayStationに限らず業界全体で見ても、ゲーム販売の大半をデジタルダウンロードが占めている。ソファに座ったままゲームの購入からインストール、プレイまで完結できる利便性は、物理パッケージをオンラインで購入する手軽さをも上回るだろう。また、デジタルを優先するアプローチは、小規模なゲーム開発者やパブリッシャーにとっても市場を広げる。製造や流通に伴うコストや負担を気にすることなく、プレイヤーにゲームを届けられるからだ。
一方で、業界を代表するAAAタイトルの多くはファイルサイズが肥大化し、そもそも1枚の物理ディスクには収まりきらなくなっている。3層構造の4K Blu-rayは最大100GBのデータを収録できるが、すでにこの容量を超えているゲームでは、「ディスク版」として販売されていても、実態としてはデジタル版を利用するための認証キーや、インストール用パッケージにすぎない。
実用的な次世代の光ディスク規格は、現時点では存在しない。仮に登場したとしても、今度は読み込み速度が課題になるだろう。現代のゲームはソリッドステートドライブ(SSD)の高速なデータアクセスを前提につくられており、光ディスクから読み込むという仕組み自体が足かせになりつつある。ゲームの進化に対応できなくなったディスク版を維持し続けることは、もはや意味がないことかもしれない。特に、6月に発売されたValveのSteamOS搭載据え置き型ゲーム機「Steam Machine」が、完全デジタルを前提としたゲーム体験を掲げ、家庭用ゲーム市場で存在感を高めようとしているいま、その流れはさらに強まる可能性がある。
しかし、“完全デジタル化”という方針には反発もある。なかでも大きな議論を呼んでいるのが、Rockstar Gamesが開発する注目作『グランド・セフト・オートVI』の予約受付開始とともに明らかになった販売方式だ。同作はデジタルのみで提供され、”パッケージ”版にはダウンロードコードだけが同梱されることが発表された。Rockstar Gamesの決定は、2026年のいま、巨大化したゲームをディスクに収めることの難しさを反映したものとも考えられるが、この騒動は同時に、物理版を求める需要が依然として存在することも浮き彫りにしている。
ゲームの所有権は誰のものか
今回の動きは、2013年にマイクロソフトがXbox Oneを発表して大失敗したときの雰囲気を漂わせている。当時、同社はディスクを特定のコンソールに紐づけることで、中古市場を事実上無効化しようと計画していた。初期の構想では、一度ゲームをインストールしてしまえば、ディスクは実質的に用済みになる仕様だった。下取りや転売、返品は極めて困難、あるいは事実上不可能になっていただろう。しかし、この構想は猛烈な反発を招き、マイクロソフトは方針転換を余儀なくされた。ソニーがディスクを完全に廃止すれば、物理メディアに対する消費者の価値観を見誤るという、同じ過ちを犯すリスクもある。
また、物理メディアがなくなることで、「コンテンツを所有する」とは何を意味するのかという問いも浮かび上がる。PlayStation Storeでの購入を巡っては、すでに問題も起きている。PlayStationは6月下旬、ライセンス契約を理由に、9月1日から英国ユーザーのデジタルライブラリからフランスの製作・配給会社「Studio Canal」による550を超える作品を削除する計画を発表した。ソニーによるこのような措置は少なくとも2度目となる。この記事の執筆時点では、購入済みのStudio Canal作品について補償や返金が行なわれる兆候はない。ソニーは「過去に購入されたStudio Canalのコンテンツにはアクセスできなくなり、ビデオライブラリから削除されます」と、そっけない説明を記しているだけだ。
ゲームソフトが1万5,000円を超える価格帯に突入しようとしているなか、購入したゲームが将来、ライブラリから削除され、アクセスできなくなる可能性があるとすれば、不安を覚えずにはいられない。『WIRED』はソニーにコメントを求めたが、記事公開までに回答は得られなかった。
デジタルストアにおけるゲームの価格も、厳しい目が向けられている。わずか2カ月足らず前、ソニーはプレイヤーにPlayStation Storeでの購入を事実上強いたとして提起された集団訴訟で、785万ドル(約12億7,200万円)の和解金を支払うことで合意したばかりだ。そのため、物理ディスク市場から撤退するにあたっては、独占禁止法違反の疑いを少しでも招かないよう、慎重な舵取りが求められるだろう。
これについては、少なくとも朗報もある。シューマンの投稿によると、ソニーは「今後も、ゲームへのアクセス方法のさらなる充実に取り組むとともに、販売店やPS Storeなど、お客様が希望する購入方法を選択できる環境を提供してまいります」としている。これは、今回の変更が発効する2028年以降も、販売店とPS Storeの間で価格や入手性をめぐる一定の競争が維持される可能性も示している。
レトロゲーム文化は生き残れるか
物理メディアからの撤退は、将来的なゲームの後方互換性にも大きな影響を及ぼしかねない。同じく7月上旬に公開されたブログ記事で、シューマンは「PlayStation 3 (PS3)」および携帯ゲーム機「PS Vita」向け「PlayStation Store」での販売を終了することを発表した。
これも、ある意味では理解できなくはない。PS3は今年で発売から20年を迎え、Vitaは12月で15年になる。しかし、これはコレクターやレトロゲーマーにとっては不吉な前兆だ。これらのプラットフォーム向けゲームの多くは物理メディアとして販売されていたため、中古市場などで探し出す手段は残されていた。だが、将来的に「PS5」がレトロゲーム機と見なされ、そのデジタルストアが閉鎖されたらどうなるのだろうか。購入したゲームのライブラリに、もはやアクセスできなくなるということなのだろうか。
ソニーの決定は、ゲーム以外の分野にも影響を与える。米国では2025年、4K Blu-rayの売上が実際に増加し、映画やテレビ番組を「所有したい」と考える消費者の増加によって、完全デジタル化の流れに逆行する動きが見られた。現在、4K Blu-rayディスクを再生する手軽な手段のひとつが、PS5や「Xbox Series X」だ。
シューマンの発表では、いずれ登場するとみられる「PlayStation 6」にディスクドライブが搭載されるかどうか(内蔵型になるのか、「PS5 Pro」や「PS5 Digital Edition」のような着脱式の外付けドライブに対応するのかを含め)は明言されていない。しかし、ソニーがあえて「PS5」ではなく「PlayStationコンソール向け」という広い表現を用いたことは、不安を招く要素でもある。もしディスクドライブが搭載されなければ、後方互換性への影響はさらに大きくなり、プレイヤーが将来、手もとにあるゲームのライブラリにアクセスできる範囲は大きく制限されるだろう。
最大の疑問は、ソニーが本当にこの方針を実行に移すかどうかだ。予定されているデジタル専用への移行が始まるまでには、いまから18カ月もの期間がある。テクノロジーの世界において、それは途方もなく長い時間だ。10年以上前、ゲーマーたちはマイクロソフトに方針転換を迫った。今回もまた、ソニーが再考を余儀なくされる可能性は十分にある。
(WIRED US/Translation by Miranda Remington/Edit by Mamiko Nakano)
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