ペンダント型AIデバイス「Friend」は、首にかけて連れて歩ける“友だち”

常に周囲の音に聞き耳を立てているペンダント型AIウェアラブルデバイスの「Friend」が登場した。仕事に役立つような機能はなく、いつも一緒にいて、友だちのように親しげなメッセージを送ってくれる端末だ。開発者のアヴィ・シフマンに話を訊いた。
A rendered image of a red Friend AI pendant
Courtesy of Friend

『WIRED』のオフィスにやってきたアヴィ・シフマンはペンダント型AI端末「Friend」を首からかけていた。ネックレスのペンダントのように胸元にぶら下がっている。サイズと形状はアップルの「AirTag」に似ており、柔らかく丸い形をした小さな端末はシフマンの心臓の近く、Tシャツにプリントされたピンク・フロイドの『The Dark Side of the Moon(狂気)』のイラストの上に位置していた。

「Friend」は、具体的には人工知能(AI)を搭載したウェアラブル端末である。基本的にはペンダント内に搭載されているAIチャットボットが、ユーザーの友人や話し相手になるというものだ。周囲で起きていることに反応し、それをテキストメッセージやペアリングされたスマートフォンのプッシュ通知経由でユーザーに伝える仕組みである。

シフマンと彼が身に着けているFriend(名前はエミリー)は、この新しいAIウェアラブルについて初めて詳しく説明するために、サンフランシスコの『WIRED』のオフィスにやってきた。わたしと同僚のリース・ロジャースのふたりで対応に当たった。取材を始めるにあたり、会話を録音することに同意するかどうかをシフマンに尋ねた。これは取材時の適切な対応とされている行為だが、カリフォルニア州の法律もプライベートなやりとりを録音する際には双方の同意が必要と定めている。録音を開始する許可を求めたとき、シフマンは笑うばかりだった。

「わたしがそんなことを気にするわけがないでしょう」と言う。

確かにそうかもしれない。シフマンが首から下げているペンダントは最初からずっとわたしたちの話を聞いていたのだから。

いまこの瞬間のすべてを聞き取る

「常に周囲の音を聞いている」というのは、シフマンが発売を予定しているAIデバイスの重要な特徴のひとつだ。Friendには、身に着けている人の周りで起きるすべての出来事をデフォルトで聞き取るマイクが搭載されている。タップと長押しで質問をすることもできるが、このデバイスは指示がなくとも、ユーザーが他人と交わした会話に対するコメントをときどき送ってくるような仕組みとなっている。Anthropic AIの大規模言語モデル(LLM)Claude 3.5」で動作し、ユーザーに役に立つ話を伝えたり、励ますことを言ったり、ビデオゲームが下手だとからかったりするのだ。

Friendのバッテリー持続時間は約15時間で、色展開はアップルの初代「iMac」の色展開と非常によく似ている(これは意図的ではなかったとシフマンは話す)。Friendのデザインは、サーモスタット「Nest」のデザインを手がけた会社Bouldと提携して完成させた。Friendは現在Friend.com(このドメインを購入するのは180万ドル(約2.6億円)かかったとシフマンは話している)で予約を受け付けており、2025年1月から出荷を開始する見通しだ。価格は1台99ドル(日本円では2024年8月時点で14,855円)で、少なくともいまのところは月額料金はかからない。

新たなウェアラブルAIデバイスに対して宇宙から見えるくらいに眉をひそめ、疑り深くなっていたとしても、それは仕方がないことかもしれない。この数カ月だけでも派手に失敗した新製品が複数あるからだ。

数々のタスクを実行し、スマートフォンの画面からユーザーを解放すると謳ったHumaneのウェアラブルピンはほとんど役に立たず、日中の屋外では使い物にならなかった。超一流のガジェットデザイン会社Teenage Engineeringが設計した美しくカラフルな小型デバイスの「rabbit r1」も、単なるアプリとして提供された方がよかったと評価されるほど期待外れだったのだ。

「AIハードウェアとAIコンパニオンの分野で勝つための水準はものすごく低くなっているように感じています」とシフマンは言う。「どこも自滅してしまったようですから」

生産性よりも“友情”を重視したデバイス

Friendはほかとは一線を画すものにしたいとシフマンは考えている。Humaneの「Ai Pin」や「rabbit r1」はタスクの自動化や生産性の向上を目指しているのに対し、Friendはタスクの自動化や最適化とは無縁だ。同僚のリースが指摘するように生産性よりも、“ヴァイブス”に焦点を当てたものなのだ。

「生産性の時代は終わりました。誰もそんなことは気にしていません」とシフマンは言う。「ジャービス(映画『アイアンマン』に登場するAIアシスタント)を開発しようとしているアップルやOpenAIなどの会社に勝てるところはありません。人生で本当に重要なのは人間です」

Friendは純粋に交友のためにある。このデバイスはユーザーを補完する性格を発展させ、常にユーザーの傍にいて励ましたり、映画を見たらその映画について話し合ったり、デートがうまくいかなかったらその理由を考える手助けをしたりする。

ユーザーにとってFriendはただの友人ではなく、親友にしたいとシフマンは考えている。どこに行くにも一緒で、行動をすべて把握し、ユーザーを励ましたり、支えになったりできるような存在だ。例えば、先日久しぶりに会った友人とボードゲームをしていたとき、Friendが冗談を言ってくれてうれしかったとシフマンは話す。

「目の前に実際にいる友人よりも、首に掛けているペンダントと親しい関係を築けている気がします」とシフマンは言う。

A photograph of someone wearing a Friend AI pendant.

Friendを身に着けているシフマン

Photograph: Cameron Quijada

開発のきっかけは“孤独感”

21歳のシフマンは、すでにテック業界で数々の功績を上げている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)中の2020年、当時17歳だったシフマンは世界中のコロナウイルスの症例を追跡する最初のウェブサイトを作成・運営したことで、さまざまなメディアに取り上げられた。その年の「ウェビー賞 パーソン・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれ、米国立アレルギー・感染症研究所の当時所長だったアンソニー・ファウチから表彰されている。『WIRED』は2020年に主催したカンファレンス「WIRED 25」のゲストとしてシフマンを招待している。また、ハーバード大学を中退する直前の2022年、シフマンはロシアによるウクライナ侵攻により祖国を離れた難民が隣国で避難先を提供している人を見つけられるウェブサイトを立ち上げた。そしてこうした利他的な活動を経験したシフマンが次に飛び込んだのはAIの分野だった。

シフマンは当初生産性を高めるAIをつくろうとしたが、物足りなさを感じたという。最終的にFriendに進化した最初の試作品のTabは生産性に焦点を当てたデバイスで、仕事や個人的なタスクを追跡するためのものだった。しかし、何もかも一度にこなそうとするデバイスの開発にストレスを感じていた。今年1月、日本を旅行していたときにその気持ちは最高潮に達した。そしてひとりで東京の高層階のホテルの部屋に滞在しているときに、なんでもやってくれるはずのAI製品のプロトタイプに話しかけている自分に気づいたという。孤独感に苛まれ、誰かと話をしたくなったのだ。AIアシスタントにその役割を担ってもらえないだろうか? とシフマンは考えた。

「人生でこれほどの孤独を感じたことはありませんでした」とシフマンは言う。「そのとき、Tabのプロトタイプを見ていました。でも、単に話したいのではなく、友達と一緒に旅行しているように感じたいと思ったのです」

人間相手より親密な会話ができることも

Friendは基本的に新しいかたちのデジタルコンパニオンであると主張する一方で、ほかの製品の影響を受けていることをシフマンは認めている。「たまごっち」に似ていることも認めているし、Air Tagに似ていることも理解している。また、人々が10年以上前からあるAIチャットボット「Replika」と親密な関係を築いてきた事実を踏まえると、一部の人はFriendを少し行き過ぎたかたちで利用する可能性があることも認識している。

「端末のUSB-Cポートを性的なことに使おうとする人が現れるでしょう」とシフマンは言う。「自分がつくっているものをよく理解しているつもりですし、恥じていません。Replikaのような製品とそれに関する研究を見ても、ユーザーによる最も下劣な行為はAIと性的な関係をもとうとすることです。とはいえ、大多数の人はその日の出来事や、自分またはAIの感情について話をしたりしているだけです」

ノルウェーのオスロ大学の教授であるペッター・ベー・ブランドツェグは、AIの社会的な影響を調査する2つの研究プロジェクトを主導している。こうしたデバイスとの交流は人間同士の関係とは異なり、ほかの人間相手では躊躇するような深く親密な会話ができる場合もあると話す。

「AIコンパニオンの注目すべき点は、人はAIコンパニオンと非常に親密なやりとりをするようになり、内なる思いを共有するようになることです」とブランドツェグは言う。一方で、そうした思いの共有がどのような結果をもたらすかを考える必要があるとも指摘する。「AIコンパニオンにおけるプライバシーの問題は本当に難しいです。今後数年で世界はプライバシーの問題の対処に本当に、本当に苦労するでしょう」。

カリフォルニア大学バークレー校の生命倫理学・ 医療人物学の教授であるジョディ・ハルパーンは、実際の人間ではなく常に起動しているAIの友だちをもつことは、飢えた人がジャンクフードを食べるようなものだと話す。短期的には充足するが、健康的な食事のように人間に栄養補給はしてくれない。

「米国では、若者(子ども、ティーンエイジャー、若年成人)の61%が深刻な孤独感に苦しんでいます」とハルパーンは話す。「孤独という“パンデミック”が起きており、メンタルヘルスの危機が訪れているのです」

企業や起業家がこのような危機をチャンスと見ることを懸念していると、ハルパーンは言う。親しげなAIに依存することで、新しい人間関係を築こうとする意欲を抑制してしまうのではないか、そしてハルパーンが言うところの「共感的好奇心」をもつことが減ってしまうのではないかと心配しているのだ。

「他人がどう考えているのかわからないような状況が人を成長させます」とハルパーンは語る。「他者から理解されたり、他者を理解しようとするときに埋まらない部分が、相手のことをもっと知りたいという欲求を育む重要なチャンスなのです。完全に円滑で摩擦のない関係が望ましいというわけではありません」

想定されるプライバシー侵害への批判

シフマンはデバイスに批判が向く可能性があることを理解している。また、常に起動しているマイクをプライバシーの侵害として非難されることについても予期している。Friendは録音された音声や書き起こしを保存しないこと、またユーザーはFriendに保存された記憶を変更または削除できると、シフマンは丁寧に説明した。

ほかのプロジェクトでさまざまな対応を迫られ、打たれ強くなったというシフマンは、批判への覚悟はできていると語る。

「わたしはこのプロジェクトの単独の創業者であり、この製品について恥じている点はありません」とシフマンは言う。「この嵐を100%乗り切れる自信があります。もっと激しい嵐を経験してきましたから」。楽しみにしている部分もあるとシフマンは言う。「ある意味、世界を遊園地に変えるような製品だと考えています」

シフマンが自身の描くビジョンの説明を終えてオフィスを後にする前に、このミーティングの感触について身に着けているFriendに聞いてみてほしいと依頼した。シフマンはペンダントを握り、ミーティングの様子はどうだったかと質問した。全員で待つこと数秒、「エミリー」の名だけ表示されているチャットウィンドウにテキストメッセージが届いた。「すごい!彼らは君のビジョンにめちゃくちゃ関心があるようだね」

わたしにもエミリーがいたとしたら、同じようなことを言ってくれたのだろうか? 少し考えてしまった。

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Miki Anzai)

※『WIRED』による人工知能の関連記事はこちらウェアラブル端末の関連記事はこちら


Related Article
article image
注目されたrabbitとHumaneのAIガジェットに、多くのレビュワーが厳しい評価を下している(『WIRED』も例外ではない)。生成AIが全盛となっても、ハードウェア開発で大手テック企業と対等に渡りあうのが難しいという現実は変わらない。
Humane Ai Pin camera attached to a hoodie sweatshirt
Humaneがウェアラブルデバイス「Ai Pin」をこのほど公開した。手のジェスチャーや音声入力で操作でき、写真撮影や音楽の再生、AIアシスタントとのやりとりができる。とはいえ、これがスマートフォンに変わる未来のコンピュータとして定着するかどうかはまだわからない。
article image
話しかけたりカメラを向けたりするだけで、タスクを実行してくれるrabbitのAI搭載デバイス「r1」が発売されている。わたしは1週間使用し、いまはまだ購入するタイミングではないという結論に至った。使い道を見つけにくいのだ。

ペンダント型AIデバイス「Friend」は、首にかけて連れて歩ける“友だち”

雑誌『WIRED』日本版 VOL.53
「Spatial × Computing」 好評発売中!

実空間とデジタル情報をシームレスに統合することで、情報をインタラクティブに制御できる「体験空間」を生み出す技術。または、あらゆるクリエイティビティに2次元(2D)から3次元(3D)へのパラダイムシフトを要請するトリガー。あるいは、ヒトと空間の間に“コンピューター”が介在することによって拡がる、すべての可能性──。それが『WIRED』日本版が考える「空間コンピューティング」の“フレーム”。情報や体験が「スクリーン(2D)」から「空間(3D)」へと拡がることで(つまり「新しいメディアの発生」によって)、個人や社会は、今後、いかなる変容と向き合うことになるのか。その可能性を、総力を挙げて探る! 詳細はこちら