22世紀に向けて酷暑日がニューノーマルになるであろう真夏において、庭仕事でやれることはそう多くない。雨が降らない限り毎朝水やりを欠かさないことと、あとは人類の憂いをよそにせっせと成長するキュウリやナスやシシトウが大きくなりすぎないうちに日々収穫を忘れないことぐらいだ。
というわけで冷房の効いたわが家からニワトリたちが闊歩する庭を日々眺めていると、もっとああしたい、こうしたいと脳内ガーデニングが始まるわけだけれど、剪定や植え替えは植物の体力を奪うし、新たに苗を植えたくても、この暑さではたちまち溶けてしまうだろう。それよりも、早春に植えてまだ完全に根付いていない木々たちが何とかこの夏を越してくれることを日々祈るばかりだ。
庭師で植物学者のジル・クレマンは名著『動いている庭』において、人間と自然の関係を次のように描写している。 「植物はつくりこまれた庭から逃れて、ただ花を咲かせるのに適した地面だけを待ち望んでいる。あとは風が、動物が、機械が、種子をできるかぎり遠くへと運んでいく。自然はこうして、とりなしてくれるすべての媒介者を利用する。そしてこの組み合わせのゲームのなかで、人間という媒介者は最良の切り札なのだ」
『WIRED』日本版として初めてとなるAI特集に「The Garden of AI」というタイトルをつけたのは、人工知能(AI)が花を咲かせるためにもまた、人間という媒介者が最良の切り札となるはずだからだ。
そもそもこのタイトルは「Garden of Eden」、つまりエデンの園のアナロジーでもある。ご存知のように、アダムとイブはヘビにそそのかされ、知恵の木になった実を食べたことでエデンの園を追放される。神の戒めに背き、自らが神のごとくなろうとした罰というわけだ。
はたしてAIとは禁断の木の実であり、いまやその知恵を手にした人類は、それまで不可能だった判断さえ神のごとくに軽々とこなせるようになる代わりに楽園を追放され、二度と戻れなくなるのだろうか? その可能性は十分ある。問題は、わたしたちが行き着く先、いわば「エデンの東」がどんな場所なのかであり、それをこのAI特集では「AIの庭」として考えてみたい。
庭とは、人間の介入がなければ自然が猛威を振るって覆い尽くし、逆にすべてを制御しようとしても、人間の理解をとうに超えた知性のネットワークがすでにそこに存在する。今特集でアーティストのジェームズ・ブライドルが語るように、植物、動物、昆虫、微生物、あらゆる生命が人間との協働によって美しき調和を築き上げ、この惑星の恒常性を保ってきた。これからはAIもまたこの自然に加わり、人類とAI、あるいはAI同士で、多様な庭をつくりだしていくはずだ。
いまやビジネスから日常まで、AIがライフスタイルの全領域に浸透し、さらにはフィジカルAIがこの物理世界に着々と進出している。加えて、ケヴィン・ケリーが「創造性のための新たなメディウム」と呼ぶ潜在空間もまた、シミュレートされた無数の現実や、この世界の無数の並行世界を生み出し続けている。そこでは東京大学の稲見昌彦が言う「VR2.0」が胎動を始め、音楽家の菊地成孔が言う「テクノポップの完成」が現実となる。
だが、今特集で誰もが異口同音に強調するように、「AIの庭」をつくるのに何よりも大切なことは、ブライドルの言葉を借りるならば、「テクノロジーが何を欲しているか」を問う前に、「わたしたち自身が何を欲しているか」についてもう一度考えてみることだ。そのうえで、もしわたしたち人類がAIとの共存、そしてさらなる繁栄を本気で望むのならば、そのために必要な知恵と実践の場は、すべてここにある ──ようこそ、AIの庭へ。
『WIRED』日本版 編集長
松島倫明
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